THE36号線

 

「名前を決めなくちゃならないんだけど」
 
 柴田智之が切り出したのは注文した串をあらかた平らげ、ジョッキを3杯は空けた頃だった。
 半年前、すすきの、串鳥。

 

「名前はナシにして、俺達の名前を書いたっていいとも思ってる」

 “俺達”とは彼と、彼の隣りでここまでの空気に目を細める烏一匹(ムシニカマル)、向かいに座っている私だ。
 
「座(ざ)って言葉を入れたいと思ってる」
 
 名前はナシではないらしい。
 私達は食器をどかして各々のノートを広げ、想いつきを字にして読み上げ、見せ合った。いろいろ案は出て、ビールもずいぶん飲んだが名前の無い一ツ処に絶対的な引力を宿らせる事は出来ないまま店を後にした。
 
 すすきのから大通へ向かう途中の赤信号。
 昨日や一昨日ならごった返している人々が日曜の夜は半分になる。
 だから「それ」が端から端までよく見えた。

「芸能36号線」と私は言った。ほどなくして、「座36号線」と烏一匹が続き、
 おそらく札幌で最も有名な道路を縦断、横断する前後、可能性や衝動を叩く想いを語った。

 信号は青になった。待つ人々が横断者に変わる。
 瞬間、加速したかに思えた名前の物語は私達の50倍はいただろう彼らの中に埋もれ、見えなくなった。
 何かをつくるためにーー。
 互いの声を聞いたし、目の色も見た。
 アルコールに浸したし、煙で燻した。でもポケットに突っ込んだ手が何かを掴み損ねてさまよっている気がした。
 
「ホホホホホ!」

 道路を渡りきった後で柴田が笑い出した。

「サンジュウロクゴウセン!ホホホ!さんじゅうろくごうせん!」

 マントラを唱えるかのように彼は繰り返した。
 其処に輪郭が生まれ始めたような気がした。
 その夜、決めたことは何一つなかった。
 でも私達は何も不安に思わなかった。
 後日、今の名前に決定したあとで突如、「THE508号線」という名前に変わりかけるがかつて柴田が事故に遭ったのも同線上だった事が発覚し、今に至る。
 新しい道路を引くより、広かった空をドームに喰われたり、吐き叫んだり、頭蓋骨を折ったり、確かに踏んできたこの道が私達にはしっくりくる。
 
 目にすると、口にしたくなる名前だと思う。
 呟いてみてほしい。あなたの足跡がきっと蘇る。
 その線上を今日も歩いて行こう。
          
                     THE36号線 かとうしゅうや

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